日本人の天気敏感度が高まる理由とは?沖縄の台風に関東も影響を受けるワケ
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※本稿は、小林弘幸、小越久美『天気に負けないカラダ大全』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■「袋がパンパンに膨らむ」状況が体で起きている
あるデータによれば、成人の3人に1人が低気圧不調に悩まされているとされ、天気によって体調に影響が出る人は日本国内に約1000万人いるといわれています。
台風などで低気圧が発生すると、SNSでは「#片頭痛」「#やる気出ない」「#低気圧のせい」などの言葉が飛び交います。
敵を制するためには、敵を知ることから。
低気圧不調で悩む私たちにとって、最重要キーワードである低気圧について、さらに掘り下げていきましょう。
山頂でパンパンに膨らんだお菓子の画像を見たことがないでしょうか。
あれこそが、まさに、低気圧のときに私たちの体に起こるむくみの正体です。
お菓子の袋も人間の体も、常に外側と内側の圧力を均等に保とうとします。
平地では圧力のバランスが取れていますが、山頂に近づくほど空気が薄くなり、圧力は弱ります(=低気圧)。
袋の外側からかかる圧力が弱まった分、袋の中にあった空気を外に逃したいのですが、出口がないために袋はパンパンに膨らみます。
人間の体では、気圧が低くなると、細胞などに含まれる水分が外側へと向かうので、体がむくみます。
■低気圧で雨や雪が降るメカニズム
気圧とは空気の重さのこと。低気圧のとき空気は薄くなります。
酸素の少ない場所で活発に行動するのは危険と判断した体は、副交感神経を働かせ、体をリラックスモードへと導きます。
すると、なんだかやる気が起こらない、眠い、だるいなど、高山病にも似た症状に見舞われる人が出てきます。
最近の研究では、気圧の変化を耳の奥の内耳がキャッチすると一時的に交感神経が刺激され、頭痛や関節痛、古傷の痛みといった、痛み系の症状が現れることもわかってきています。
このように、低気圧女子のさまざまな不調の引き金となる低気圧ですが、なぜ、低気圧のときは雨や雪が降るのか知っていますか。
簡単に説明すると、
↓
暖かい空気は軽いので上へ向かう
↓
上昇気流が発生し、上空で冷やされ雲ができる
↓
雲の粒が大きくなり上昇気流が支えきれなくなると雨として降ってくる
ということが起こっています。
■間隔が狭いグルグル等圧線に注意
空気が上に移動すると、地表の空気量が減り、気圧も下がります。
反対に高気圧は、上空の空気が下降気流によって下りてくるために空気の量が増えて気圧が上がります。
天気図を見れば、常にどこかに低気圧が存在しているようにも思えますが、低気圧女子が注目すべきは、H(Highの略、高気圧)とL(Lowの略、低気圧)をグルグル取り巻く等圧線の幅です。
等圧線の幅は気圧差の大小を表しています。間隔が広いほど気圧差は緩やかで、風がおだやかになります。
反対に、等圧線の間隔が狭いときは気圧差が大きく、風が強く吹き荒れます。
等圧線を陸地に置き換えると、高気圧は山のような高い場所、低気圧は谷底のような低い場所といえます。
高気圧の等圧線は数も少なく緩やかなことがほとんどで、ピクニック気分で登れる小高い山がイメージ。
低気圧も等圧線が緩やかなら自力で這い上がれるくらいの谷ですが、グルグルの等圧線ともなれば、救助を必要とするほど深いすり鉢状の谷底にズドーンと突き落とされるくらいのインパクトがあります。
Lを囲むグルグルの等圧線。これが天気図に出現したら、要注意です!
■頭痛が起きる原因は血液循環にある
慢性頭痛に悩む人は全国におよそ4000万人。30代女性の5人に1人が片頭痛持ち。
片頭痛で悩む人は男性より女性のほうが3倍以上も多い。
さまざまなデータが示す通り、頭痛に悩む女性はかなりの数にのぼります。世代別で見ると、20~40代の女性に頭痛持ちが多いというデータもあります。
頭痛には大きく分けて、「片頭痛」と「緊張型頭痛」の2種類があります。
こめかみや側頭部が脈打つようにズキズキと痛むのが片頭痛。頭頂部をベルトで締めつけられるようにキリキリと痛むのが緊張型頭痛の特徴です。片頭痛にしろ緊張型頭痛にしろ、その痛みの原因は血流障害にあります。
鍵を握るのは血液循環で、血液循環をコントロールするのが自律神経です。
片頭痛は低気圧不調の代表的な症状であり、最近では、「低気圧頭痛」という言葉も普通に使われるようになりました。
低気圧頭痛は、副交感神経が優位になり血管が拡張しているときに起こります。血管が開いているなら、血液もドバドバ流れて血流はよくなりそうなのになぜ? と思うかもしれませんね。
でも、くもりや雨の日はさまざまな理由によって血管が開きっぱなしになると、それはそれで血液の流れが悪くなり、頭痛の引き金になってしまうのです。
■体の水分が出ていかず、血液がドロドロに
低気圧頭痛の原因はいくつか考えられますが、最初に低気圧の影響から考えていきましょう。
そもそも、低気圧の接近中や雨が降っているときは、空気中の水分が多く、発汗しにくくなります。すると水分代謝がうまくいかない、いわゆる水はけの悪い状態になります。
水分代謝がうまくいかない=血液がうまく流れていないということ。雨の日は、副交感神経の働きや体内に溜まった余分な水分によって、血管は拡張しているのに血液循環が悪くなるのは、そこを流れる血液がドロドロになってしまっているから。
川幅は十分にあるけれど、流れはゆるゆるとしているドブ川のようなイメージです。
なぜドブ川になってしまうかというと、くもりや雨の日は汗をかきにくいことに関連して、水分補給がおろそかになりがち。
血液も水分ですから、外から入ってくる水分が不足するとドロドロになってしまうのです。
さらに、低気圧の接近中や通過中は、リラックスモードの副交感神経が働きやすく、動くのが億劫になりがちです。
すると、血液を送るポンプの役割を果たすふくらはぎの筋肉も刺激されず、より一層、血液の流れが悪くなるという悪循環に!
■家の中でじっとしていると悪化するケースも
歩いたり動いたりすることで交感神経が刺激され、血管が収縮して血液循環もよくなっていくのですが、それをせずに家の中でじっとしていると、開きっぱなしになった血管が周囲の神経を刺激し、それが頭痛を誘発するというケースもあります。
また、気圧の変化をキャッチするのは、耳にある内耳という器官ですが、内耳はリンパ液で満たされており、水分代謝がうまくいかない水はけの悪い状態になると、内耳周辺の神経を圧迫し、これが頭痛まではいかなくても、耳鳴りやめまいを引き起こす原因になることもあります。
台風の発生や接近にともなって片頭痛が起こる「台風頭痛」も低気圧頭痛のひとつといえるでしょう。
台風の発生によって気圧が1ヘクトパスカル低下すると、海面が約1センチ上昇します。人間の体も約60%が水分ですから、その影響は避けられません。
台風がいよいよ接近してくると、12~24時間で気圧が20~30ヘクトパスカル低下するようなことが起こります。すると、体内の水分調整をする自律神経の働きが追いつかず、台風頭痛といった不調を招くことになります。
■関東在住なのに沖縄の台風で頭痛がする
人によっては、関東に住んでいるのに、沖縄の南の海上で台風が発生したのと同時に片頭痛が起こりそうな前兆を感じ取ったり、軽い痛みを感じたりする場合もあるようです。この場合は、気圧よりも気温の変化による影響が大きいと考えるのが自然かもしれません。
南海上で台風が発生すると本州付近では高気圧が強まることがよくあり、猛暑になったり、残暑がぶり返すことがあるのです。急な暑さによって副交感神経が優位になり、その結果、片頭痛や倦怠(けんたい)感が生じてしまうと考えられます。
「緊張型頭痛」は、頭をベルトで締めつけられるように痛んだり、後頭部から首筋にかけて重たい痛みを感じたりするのが特徴です。
気象条件では、低気圧が通過したあとに寒気が流れ込み、急激に気温が下がったときに交感神経の働きが急に高まることで、緊張型頭痛を引き起こすことが考えられます。
冬型の気圧配置で厳しい寒さが続くようなときなど、寒さと関連して起こることも多いようです。
気象条件以外の主な原因としては、身体的・精神的ストレスです。
ストレスもまた交感神経を高めてしまう大きな要因であり、血管が収縮した状態が続いてしまうことが緊張型頭痛を発生させると考えられます。
■前屈みでスマホを操作している人は要注意
最近のよくある傾向としては、スマホやパソコン操作で前屈みの姿勢が続くと、交感神経がたくさん通っている体の前面を圧迫するような形になり、また、呼吸も浅くなります。
そのどちらもが交感神経を上げることにつながります。
交感神経が優位になると血管が収縮し、血液の質そのものに問題がなかったとしても、血液の流れをせき止めてしまうために血流障害が起こります。ずっと同じ姿勢を続けていると、首や肩の筋肉がこり固まりますが、ここでも血流はせき止められて血流障害が起こっています。
加えて、筋肉の中に疲労物質が溜まっていき、それが周囲の神経を刺激することで痛みを発生させたり、歯の食いしばりなどで側頭部の筋肉がこってしまったりする場合にも、緊張型頭痛の原因になることがあります。
環境の変化や人間関係による精神的なストレスが強いときも、神経や筋肉は緊張した状態となり、肩こりなどと同じように疲労物質が溜まったり、脳の痛みの調整がうまくいかなくなったりして頭痛を引き起こすこともあるようです。
緊張型頭痛の原因は、急激な寒さと交感神経を昂らせるストレスにあると覚えておきましょう。
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順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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気象予報士、健康気象アドバイザー
1978年、岐阜県下呂市生まれ。筑波大学第一学群自然学類地球科学専攻(気候学・気象学分野)卒業。2004年から2013年まで日本テレビ「日テレNEWS24」にて気象キャスターを務める。その傍ら、民間の気象予報会社(株)ライフビジネスウェザーに所属し、健康気象アドバイザー・データ解析士の資格を取得。スーパーマーケットの売上予測の開発にも携わる。現在は(一財)日本気象協会に所属し、気象データとAIを活用した商品の需要予測事業に携わり、アパレルや飲料メーカーなどへのコンサルティングを行う。著書『かき氷前線予報します お天気お姉さんのマーケティング』(経済法令研究会)。
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