嵐の櫻井翔が9月16日に放送された冠番組のなかで、自らの「バイブル」と称するマンガを明かして周囲を驚かせた。櫻井と言えば所属するジャニーズ事務所が、故ジャニー喜多川氏の性加害問題を巡る記者会見を行ったこともあり、より一層身辺が慌ただしい。キャスターを務めるニュース番組での立ち位置やテレビCM契約の今後も不透明だ。そんななか、自身の冠番組でバイブルとするマンガを2作品挙げた櫻井。たかがマンガ、されどマンガ。この2つの作品から、現在の櫻井を取り巻く状況とその複雑な心情が垣間見えた。
9月16日放送のバラエティ番組『1億3000万人のSHOWチャンネル』(日本テレビ系)で、MCの櫻井翔がバイブルにしているマンガについて語った。
京都国際マンガミュージアムのロケで、来館していた女子高生たちが「登場人物が、個性強めでおもろい」と評したそのマンガは、『行け!稲中卓球部(以下『稲中』)』(作者:古谷実)だった。『週刊ヤングマガジン』に1996年まで連載され、第20回講談社漫画賞一般部門を受賞した作品ではあるが、中二男子がやりそうな下ネタギャグ満載な内容から「青春のバイブル」と呼ばれる。
番組スタッフが「櫻井翔さんのバイブルです」と明かしたところ、「イメージ変わった」と苦笑する女子高校生たち。櫻井の意外な趣味を知って、「やっぱ普通の男子やな」とこぼしていた。
3月18日に英BBCが『プレデター(邦題・Jポップの捕食者)』として、ジャニー喜多川氏による性加害の実態を全世界に向けて放映してから、ジャニーズ事務所および所属タレントの去就は世界中の耳目を集め続けている。そのようななかにあっても、『news zero』(日本テレビ系)の月曜日キャスターを務める櫻井翔は当初、この問題に関するコメントを控えていた。いや「控えさせられていた」というべきか。8月26日、27日に放送された『24時間テレビ』で後輩のなにわ男子がパーソナリティーを務めることもあり、その他にも様々なしがらみが櫻井をがんじがらめにした。結果、公序良俗と自らの保身という葛藤を打破できなかったのであろう。
6月5日の『news zero』でジャニーズ事務所に向けて、被害者に無理強いすることなくプライバシー保護を徹底したうえで「どのようなことが起こっていたのか調査してほしい」と訴えるのが当時の櫻井の精一杯だった。
やがて9月7日にジャニーズ事務所が会見を開き、ジャニー喜多川氏による性加害があったことを認めた。同日の『news zero』では、櫻井がVTRで今後のジャニーズ事務所について「今までの価値観を否定して、全く違う組織になっていくんだという決意を感じた」とようやく、「どのようなことが起こっていたのか」を認めたうえで言葉を発した。
ジャニーズ事務所に所属するタレントのCM契約の今後は、控えめに言って暗澹たる状況だ。サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏は、自身が代表幹事を務める経済同友会の12日の定例記者会見で、「真摯に反省しているのか大いに疑問だ」とジャニーズ事務所の姿勢について事実上明確な「NO」を突きつけた。19日に行われた経団連の会見では、十倉雅和会長(住友化学株式会社代表取締役会長)が、故ジャニー喜多川氏による性加害を「児童虐待、犯罪行為」と断罪している。
ジャニーズ事務所からの「タレント流出」も加速度を増している。2022年10月にはジャニーズアイランド社長を務めていた滝沢秀明氏が退所し、2023年3月に新会社「TOBE」を設立した。2023年にはKing & Princeの平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太が5月22日をもってグループを脱退。岸は9月30日をもってジャニーズ事務所を退所する予定だ。V6の三宅健が5月2日をもって事務所を退所すれば、5月25日にはジャニーズJr.内の7人組ユニット・IMPACTorsが「卒業」、Kis-My-Ft2の北山宏光は8月をもってグループを卒業および事務所を退所した。しかも平野紫耀、神宮寺勇太、IMPACTors(IMP.に改名)、三宅健、北山宏光、さらに元ジャニーズJr.の大東立樹が「TOBE」に合流して所属アーティストとして活動している。それぞれ退所した理由は不明とされてはいるが、ジャニーズ事務所に見切りをつけ、藤島ジュリー景子氏に「三下り半」を突きつけたことは想像に難くない。
では、櫻井翔はどうか? 現在のところ櫻井がCM出演しているアフラック生命保険は、ジャニーズ事務所との広告契約を終了する意向を打ち出しながら、今後は「櫻井個人」との契約に変更することを検討しているという。
事ここまで至れば、櫻井翔にとって「ジャニーズ事務所」という看板は、足枷、背負わされる十字架でしかないのだ。櫻井翔がジャニーズ事務所からの「脱出」を考えているであろうことは当然の成り行きだ。すでに決断はなされ、あとはタイミングを待っているだけと考えるほうが自然である。
こうして腹をくくったであろう櫻井が、ジャニーズ事務所の不文律に反旗を翻すことになんら不思議はない。
ここで前述の、櫻井の「バイブル」について思い出して欲しい。以前から『稲中』について語ったことはあった櫻井だが、ここにきて迷いなく番組スタッフをも巻き込んで、下ネタ満載のこの作品を「何回読んだことか」と公言し、自分にとっての「バイブル」=「権威ある価値の高い書物」だと自らの冠番組で語った。
一見、バラエティのなかでの一お笑いエピソードに過ぎないように見える。しかし、お下劣路線は許されず、下ネタなどもってのほか、これを冒せばタレントにとっては命取りにもなったジャニーズ事務所の「超高潔」、「超清高」なる志。『稲中』は絶対に彼らの世界線とは相容れない。
ちなみに櫻井がバイブルとしてもう1つ挙げた作品が、少年院を出所した若者たちの人生を描いた『RAINBOW-二舎六房の七人-』(原作・原案など安部譲二/作画:柿崎正澄)だ。『RAINBOW-二舎六房の七人-』では、少年たちが看守や大人から酷い仕打ちを受ける姿が描かれる。
『RAINBOW-二舎六房の七人-』については、ゲストの山田涼介(Hey! Say! JUMP)が好きなマンガとして紹介したのだが、櫻井は「僕も2つ(『稲中』と『RAINBOW』)挙げていたのに、スタッフが『稲中卓球部』を選んだ」と明かして笑いを誘った。
ジャニーズ事務所が前世代の遺物となりつつある今に至っても、現在所属中のタレントが自らの意志や覚悟を発信する方法は、暗号のように読み取りづらく、囁きよりも小さな声でしかない。
たかがマンガと言うなかれ。『稲中』は櫻井翔のジャニーズ事務所への緩やかな反旗の翻しであり、小さくはあるが独立へ腹をくくったことの意思表示に一役買ったのだ。
画像は『Google Earth (C)2023 Google』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)
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